なぜ子どもたちに体験学習が必要なのでしょうか?
それは子ども達の発達特性にも理由があります。
20世紀を代表する心理学者のジャン・ピアジェによれば、子どもの発達には段階があり、0〜2歳は感覚運動期、2〜7歳は前操作期、7〜12歳は具体的操作期、12歳以降は形式的操作期と呼ばれています。小学校に入学する6〜7歳の時期に前操作期から具体的操作期への移行があります。
この段階では、数量把握に重要な概念のひとつである保存の概念が獲得されます。
この時期の子どもの特徴に、底が広く浅いコップに一杯入った水を、底が狭く深いコップに移したとき、子どもによっては見え方に惑わされ、水が多くなったとか少なくなったとか表現することがあります。
実際には、水の量は保存されており、変化はないのですが、この概念(保存の概念)を獲得していない子どもはこのように反応するのです。幼児期にも概念の発達は進みますが、まだ自分中心に物事を捉えており、知覚に左右されやすいのです。
7〜12歳になってくると具体的な物があれば、この保存という概念を物を通じて理解できるようになります。
つまり、具体的な物を利用する教育が、この年齢の子ども達には適しているとも言えます。
具体的なものによらず、抽象的な思考や記号による思考ができるようになってくるのは、12歳以降の形式的操作期に入ってからです。
ここで算数の問題を考えてみましょう。
「長さ1mで重さが2kgの棒があります。長さ3mでは重さはいくつでしょうか?」
多くの大人の皆さんは形式的操作期におりますので造作もなく、2kg×3m=6kgとすぐに答えが出せるでしょう。
ところが、教科書や黒板にこの問題が文字で書かれていたとしても、解くことが難しい子どももいます。
教科書が掛け算を習う場所だから、勘を働かせて闇雲に掛け算をして、答えだけ合わせる子どももいます。
それはなぜか?
具体的な物をもって理解する発達段階にある子どもに、文字に書かれた抽象的な重さ、長さという概念で問題を解かせようというところに無理があるのです。この問題を解けない子どもは、おそらく頭の中で、1mの棒があってそれを3つつなげたのが3m棒だから掛け算だという想像ができていないのでしょう。
このような発達段階にある子どもに、掛け算の意味を伝えるには、具体的な物をもってやるのが良いと考えています。
以前に出てきた多摩川イカダ下りのイカダでもいいですし、料理をするときの調味料でもいいでしょう。具体的なものを持って掛け算の意味を体感するこういうことが大切で、そうした体験を通じて、子どもの頭の中に掛け算という概念が定着するのではないでしょうか。
大人の目線では当たり前のことでも、子どもから見れば未知のことばかり、机の上だけで学んでいても、真の意味で成長はしないのではないでしょうか。具体的な物を通じた体験をもって、知識ではなく、実践力をつけるのが、ネイチャリングルーム学童保育の体験学習です。
(参考文献:「人間の発達と学習」2001年 立木徹・他2名、玉川大学通信教育部)